101周年記念
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経営者からはもちろん直接的・間接的に指摘・指導されることはあるが、それは結局、同じくこの組織にいる自分の先代の「顔に泥を塗る」ことになるため、若い世代の経営者や後継者たちも積極的に勉強し、成長しなければならないというプレッシャー効果ももたらしている。またインタビュー調査をつうじて生田家の後継者教育に関してもう一つ重要なことがわかった。それは日常生活のなかの小さなことを利用して後継者教育を積極的に行っていたことである。現三代目社長の生田泰宏は中学卒業後、故郷を離れて、モラロジー研究所が運営する全寮制の麗澤高校へ進学し、さらに大学卒業後はアメリカ留学も経験していたため、常に父親のそばにいなかった。しかし二代目社長の生田宗宏はいつも日常生活のなかで起きた小さなことをとおして「事によせて自分の意思を述べる」といった教育を生田泰宏に対して行っていた。たとえば、インタビュー調査のなか、生田泰宏は筆者に、以前二代目社長が彼に一通の手紙を寄こしたことを紹介した。「中学校卒業後、一人で京都を離れ関東の千葉県にある全寮制の高校に入学しました。そして入学して間もない頃、父からもらった入学祝いの腕時計を失くしてしまいました。当時は絶対に同じ部屋のあの人が私の腕時計を盗んだと疑い、腹が立って両親にも学校の先生にも自分の考えを伝えました。もちろん証拠はなかったのですが。それからしばらく経って、父から一通の手紙が届きました。手紙のなかで父は、『腕時計を失くしたのは、まずは自分の管理過失によるものだ。学校の寮で集団生活を送るのだから、自分の物をしっかり管理することは最も基本的なことなのに、それができていない。もし本当にその誰かが腕時計を盗んだとしても、それは自分の物をしっかり管理できていないから、このせいで、その人に罪をつくらせたことになる。もし自分は物をきちんと管理できていれば、彼の人生にはそのような汚点を残さなかったのであろう。だから他人を責める前に、まず自己反省をしなければならない。自分がすべて正しく、他人がすべて悪いと思うのならば、必ず心の狭い人になってしまう……』と書いていました。それを読んで、本当に恥ずかしかった。そして本当に良いことを話してくれました。会社のマネジメントも実に同じです。社員が誤りや失敗をする、その理由、ほとんどは会社の制度に不備があるということですから。四〇年前に書かれたこの手紙は今でも大事な色褪せない宝物です」生田産機工業の社長室の壁に飾っている創業精神を表す言葉があり、「天命に従い人事を尽くす」である。中国の清の時代、著名な小説家李汝珍の著作『鏡花缘』のなかに、「尽人事、聴天命」という言葉があり、つまり「人事を尽くし天命に従う」である。このなかの「人事」は人情道理を意味し、「天命」は自然法則を指す。全体的な意味としては「人間としてできる限りのことをして、あとは静かに天命に任せる」とし、要するに「森羅万象には変化が多く、予測することは難しい。人間は精一杯で自分のやれることを成し遂げたとしても成功できるかどうかはわからない。天命に従わなければならない」である。ところが生田産機工業の創業精神は「天命に従い人事を尽くす」と、李汝珍の言葉とは似ているが、前後は逆となっている。この順番にはどのような意味があるのか。生田泰宏はこう語る。「よく『この言葉が逆になっているのではないか』と聞かれています。なぜうちでは『人事を尽くし天命に従う』で六、結びにかえて:生田家に代々伝わる創業精神と送恩経営 【図3】新しい工場の建物が竣工したときの生田産機工業社員及び社員家族の集合写真035

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